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誕生日を祝うためには
本日9月3日はドラえもんの誕生日です。
ドラえもんはロボットなので事情は少し違いますが、誕生日を祝うためには「誕生」が無事に行われなければなりません。
そして、その誕生をサポートしてくれる存在が、産科医のお医者さん達です。
この産科医のお医者さん達を取り巻く状況が、あまりにも過酷であると感じたため、今回の記事にすることにしました。
すでに私よりも詳しい方々が各所で報じられているので、興味のある方は是非調べてみてください。

先週、奈良でマスコミが報じるところによると「たらい回し」での死産があったことは記憶に新しいと思います。
奈良妊婦死産:最初要請の病院 受け入れに余力
奈良県橿原市の妊婦(38)の胎児が救急搬送中に死亡した問題で、橿原消防署(中和広域消防組合)から最初に妊婦の受け入れを要請された県立医科大学付属病院(同市四条町)が、要請から約2時間のうちに、他の2人の妊婦を救急搬送で受け入れていたことが県の調べで分かった。病院に受け入れの余力がありながら、消防とのコミュニケーションの不備などで結果的にこの妊婦の受け入れができなかった。
毎日新聞 2007年8月30日 23時57分の記事より引用

これらの論調では、主に受け入れなかった病院側を非難するというものが多いように感じます。
これに対して、名指しで非難されている奈良県立医大が当日の勤務状況を公表しました。
その部分を引用します。
今般の妊婦救急搬送事案について
平成19年8月28日の当直日誌記録より
(産婦人科当直者 2名)
時間 対応内容

8月28日(火)夕方から抜粋

19:06
妊娠36週 前回帝王切開の患者が出血のため来院、診察後に帰宅
19:45
妊娠32週 妊娠高血圧のため救急患者が搬送され入院、重症管理中
09:00~23:00
婦人科の癌の手術が終了したのが23:00、医師一人が術後の経過観察
23:30
妊娠高血圧患者が胎盤早期剥離となり緊急帝王切開にて手術室に入室
23:36~00:08
緊急帝王切開手術
00:32
手術から帰室、医師一人が術後の処置・経過観察をする。重症のためその対応に朝まで追われる。妊婦の対応にもその都度応援する。当直外の1名の医師も重症患者の処置にあたり2:30ごろ帰宅

8月29日(水)

02:54
妊娠39週 陣痛のため妊婦A入院、処置
02:55
救急隊から1回目の電話が入る(医大事務当直より連絡があり当直医一人が事務に返事) 「お産の診察中で後にしてほしい」、そのあと4時頃まで連絡なし
03:32
妊娠40週 破水のため妊婦B入院、処置 (これで産科病棟満床となる)
04:00
開業医から分娩後の大量出血の連絡があり、搬送依頼あるが部屋がないため他の病棟に交渉
04:00頃
この直後に救急隊から2回目の電話が入る 「今、当直医が急患を送る先生と話しをしているので後で電話してほしい」旨、医大事務が説明したところ電話が切れた
05:30(病棟へ)
分娩後の大量出血患者を病棟に収容 (産科満床のため他の病棟で入院・処置)
05:55
妊婦Aの出産に立ち会う。その後も分娩後出血した患者の対応に追われる
08:30
当直者1名は外来など通常業務につく、もう1名は代務先の病院で24時間勤務につく
奈良県立医大が公表したのは事実だけで、他には何も主張していませんがが、事実の羅列は何よりも説得力を持っているように思います。
私はこれを信じられないほどの激務だと感じるのですが、これを見て「受け入れに余力」と感じる人も、いるのかもしれません。

私は過去に少し、分娩に関する研究に関わったことがあるのですが、「分娩」というのは生物にとって本当に大きなイベントです。
これ以上のイベントはないくらいに。
生体内では遺伝子レベルから臓器、個体レベルまでのあらゆるレベルで数多くの制御系が働いて、このイベントが為されます。
当然ですが、身体にかかる負担も大きく、危険を伴います。
この「分娩」という最前線で、ギリギリの状態で働いている産科医のお医者さん達がこのような報道による被害を受ける状況は、明らかにおかしいです。
批判されるべきは、病院でも医者でもなくシステムです。

最後に、この記事の一部を引用して終わりたいと思います。
asahi.com 医局の窓の向こう側 燃え尽きたら
「俺さぁ、もう、ほんと、辞めようかな」どんぶりに箸を突っこんだまま、T先生が顔を上げて宙を見つめた。
「産婦人科が大変だというのは、あちこちで言われてますよね。で、ご開業を考えてらっしゃるってことですか」真田、腰が引けた物言い。T先生の精気の抜けた顔を見ると、なんと声をかけてよいのやら。
T先生が産婦人科を選択したのは、数ある科の中で唯一「おめでとうございます」と言える科だったからとか。暗くなりがちな病院の中で、産婦人科だけはピンク色の壁紙で、赤ちゃんの泣き声がして、幸せそうだったから、と。
そもそもお産にはリスクが伴うものなのに「うまくいって当たり前、何かあったら医療ミス」の考え方がある。医療とは患者の体に介入することだ。100%安全はありえない。それを患者が忘れ始めている。T先生を追い詰めているのは、考え方の変わってきた(一部の)患者さんたちのようだった。
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