サイエンス・ノンフィクション

本日、9月3日はドラえもんの誕生日です。
お誕生日おめでとうございます。
ドラえもんが生まれた(製造された)のは、2112年9月3日。
今から98年後の未来の話です。
98年後というとまだ随分先の話のように感じますが、その頃には「ネコ型ロボット」が量産されていて、私達の生活の一部に存在している未来になっているかもしれません。
現段階では残念ながら、未来に対する空想の話、サイエンス・フィクションですけど。

でも実は、今から15年も前に「イヌ型ロボット」は量産されて、確かに私達の生活の一部に存在した、そんな「サイエンス・ノンフィクション」な現実がありました。
恐らく覚えている人も沢山いると思います。
「AIBO」です。

いささか旧聞な話になってしまいますが、先日、「AIBO」のサポート終了についての記事がありました。
AIBO、君を死なせない 修理サポート終了「飼い主」の悲しみ
記事の一部を少しだけ引用します。

初代AIBOの発売は1999年。その後、2006年にソニーはロボット事業からの撤退を発表し、AIBOの生産を終えた。在庫のない部品も多かったが、それでも今年の3月まで「クリニック」と呼ばれる修理サポートは続けられてきた。
老いたロボットをどうみとるか。こんな問題をいったい誰が想像しただろう。
「イヌ型ロボット」をペットとして愛でて、生活を共にし、そして「最期を看取る」という「ロボットと人間の未来」の形の一つが確かにそこにありました。

「機械」というのは、ある時代までは生物にとっての上位互換であると言う認識が確かにあったと思います。
サイボーグだったりアンドロイドだったりロボットだったりは、人間にできないことができて、老いていく人間とは違って、ずっとその状態を、性能を保つものだという認識です。
星野鉄郎は銀河鉄道999において、「機械の体」を手に入れて「永遠の命」を得るために旅をしていました。
しかし、少なくても現状では「機械の体」はパーツの生産が終了して、耐用年数が過ぎれば、おそらくは人間よりもずっと早くに「最期」を迎えてしまいます。

98年後、ドラえもんは誕生します。
けれどももし120年後、ドラえもんのパーツの生産が終了したら。
そんな風に考えるとちょっとゾッとしますね。

でも機械には一度「最期」を迎えてしまったとしても、「修理」できるかもしれないという希望があります。
将来的には今よりもずっと進歩した3Dプリンターのような機械で、オーダーメイドなパーツ作成が可能になっているはずです。
そうすると体のパーツは全部交換可能で、そのロボットがそのロボットであるという「魂」はメモリに宿ることになると思います。
これもバックアップ可能です。
ドラえもんの体を構成するパーツを使用して、ドラえもんのメモリを搭載した、「ドラえもん」は無限に永遠に生産可能だということになりますが、こんな風に考えるとこれはこれでちょっとゾッとしますね。

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ロボットと性別と藤子F先生

昨年末に人工知能学会の学会誌の表紙を巡って、ちょっとした騒動がありました。
詳細は下記のリンクを参考にしてもらうとして、私自身には特に問題になるようには思えない内容だったこともあり、この問題はとてもむずかしいと思いました。

人工知能学会誌、表紙が”萌え”化 「正直、学会誌にふさわしいか悩んだ」 堅いイメージをチェンジ(2013年12月25日)
人工知能学会の表紙は女性蔑視?(2013年12月26日、発火)
人工知能学会の表紙を通じて、批判と攻撃との差をみる(2013年12月28日、私にとって納得できる内容)
「人工知能」の表紙に対する意見や議論に関して(2014年1月9日、人工知能学会の公式見解)

私はこの問題について直接にはこれ以上言及することはないのですが、「ロボット(アンドロイドやガイノイドを含む)」の性別問題は、非常に興味深いテーマだと思いました。
本来ロボットには「性別」はありませんし、もしロボットが「ロボット三原則」に従うのであれば、それは必ず人間に対して隷属的にならざるをえないためです。
ロボットに「性別」があるならば、それはロボットにおけるジェンダー問題が発生しうることを、今回の騒動は示していると思います。

ジェンダーロールが何か、と言うと、下記に引用します。

性役割(せいやくわり、gender role)とは、その性別に、社会的に期待されている役割のことである。 例えば、「男だから、めそめそしない」「女だから、おしとやかにする」などの行動規範に従って行動するとき、その人物は性役割を演じているとされる。この場合、特定の性に本人の好むと好まざるとを問わず、一定の役割を期待すると共に、その役割に応ずる準備や能力、資質、性向がない場合、不要なストレス、劣等感を当事者に持たせ、社会的に自分が不完全であり、不適応であるとの疎外感や差別感を持たせることになってしまう。これは、女性に賃金労働上の成功のチャンスを与えないばかりか、男性にマッチョイズム(男性至上主義)のシンボルとして適合しない場合、その権威への落第者といった自己評価の低下をもたらすなど、さまざまな議論を投げかけるものでもある。(Wikipediaより引用)
今回の騒動の場合、隷属的状態の上で「掃除(家事)」を「女性型」のロボットが行っていることが問題になりました。

ところで、日本で最も有名なロボットの一つに「ドラえもん」があります。
ドラえもんは、オス型の量産型「子守ロボット」なんです。
今でこそ「イクメン」が市民権を得ましたが、ドラえもんが書かれた当時(1970年代〜90年代)は必ずしもそこまで一般的ではありませんでした。
これって、今回の騒動との対比で考えると、とても面白いなあ、と思いました。
この件について、ちょっとTwitterで書きました。


このテーマで少し藤子F先生の描かれた作品を参照して調べてみると面白そうだと思いましたが、今回のエントリではそこまでは行っていません。

うちには藤子・F・不二雄先生の全集がもちろん全巻ありますので、検証は可能です。
可能ですが、ちょっとかなり相当とても大変そう面白そうですね。

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ノブリス・オブリージュをどこまで期待するか
このような記事を目にしました。

食品業界がばらまく「社会毒」 〜牛乳、人工甘味料、ダイエット食品は危険?
http://news.livedoor.com/article/detail/8323070/

この記事に関してはかなり間違いが多く、参考にはしない方がいいのですが、この手の記事にありがちな問題として、誰がどのようにこのような記事の間違いを指摘するかと言うことがあります。
間違っている部分と、間違っているとは言えない部分を選別し、それに対して指摘、解説するためには、この内容に関わる分野についての知識や、検証するための手法が必要であり、これは誰にでも可能であるというわけではありません。

そのようなことが出来る人がやるべき、と言う意見ももちろんその通りなのですが、このような記事について解説することについて、その「出来る人」にどのようなインセンティブや、もっと言うとメリットがあるかというと、多分あまりありません。
それでも、しっかりと解説をして下さっている人もいて、本当に凄いなあ、と頭が上がらない気持ちなのですが。

とらねこ日誌;乳糖を分解してもカルシウムはできないよ
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20131207/1386390298

個人のブログなどでしたらともかくとして、商業誌やニュースリリースレベルで情報を発信するのでしたら、内容に対する責任は一義的にはその会社や出版社にあると思います。
そのような会社、出版社に、内容を検証できるだけの人材を置くか、または検証できる人に依頼するかというステップが必要ですけれど、現状はあまり大きな期待を出来る状態にはありません。
では、「出来る人」たちの自主的な検証活動に期待するかというと、あくまでもある程度の善意であり、科学的に間違いを含んだ記事は日々量産されている状態ですから、各個撃破には限界があります。

ネットでは多数の間違いを含んだ情報と、少数にそれに対する検証記事では、どちらの方が読む人に届きやすいか、と言うと、やはりこれも難しい問題です。
届いて欲しい人に限って届かないようにも思います。

自分にできることは、気が向いたときに私に分かる部分については、少しでもブログに書くことくらいかなあ、と、ありきたりですが思います。
まあ、解説記事どころかブログ自体、あまり書いてないんですけどね。
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親の経験は子に伝わるかも
久しぶりの更新だしいっちょ気合を入れようかと思い、この記事に対して解説みたいなことをしてみようと思ったのですが、元になった論文を誤解のないようにまとめようとすると長大になってしまいそうな気配を感じたので、ガツンと諦めました。
なのでざっくりと。

恐怖の記憶、精子で子孫に「継承」 米研究チーム発表
http://www.asahi.com/articles/TKY201312040021.html

もとになった論文はこれです。
Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations
http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.3594.html

これはとても示唆に富む論文で、もし結果が真実であれば、今後の生物学研究の方向性をある程度決めうる内容を含んでいるのではないかと思います。

マウスに対して匂いを嗅がせながら電気ショックを繰り返し与えると、匂いを嗅いだ時点で電気ショックがなくても恐怖のすくみ反応を示すようになります。(恐怖条件付け)
今回の研究では、この匂いによるすくみ反応が、実際に電気ショックを受けた親マウスだけではなく、電気ショックを受けたことのない仔マウス、孫マウスにも引き継がれていることを見出しました。
これが真実であるならば、生まれた後に獲得した形質は(基本的には)子に引き継がれないというこれまでの考え方を覆すものですから、非常にインパクトがあります。
例えば、後天的に筋トレをしてマッチョになった人の子どもが、生まれた時からマッチョではないですよね。
そして、インパクトがあるだけに、論文の筆者らはとても内容に気を使って文章を記載している印象を受けました。
実験計画も、各所からの細かいツッコミを一つ一つ潰すような、かなり気を使ったものになっています(それでもいくつかの実験については最適な方法ではないように見えましたが)。

重要なのは、この研究では二種類の匂い(アセトフェノンとプロパノール)について検討していて、どちらの匂いを電気刺激と関連付けても、関連付けられた匂いによるすくみ反応が子世代のマウスで引き起こされたのに対し、関連付けられていない匂い(アセトフェノンと電気刺激を関連付けた場合ではプロパノール、プロパノールと関連付けた時は逆)ではすくみ反応が見られません。
孫世代のマウスでも同様の結果でした。

加えて、脳の構造についても検証しています。
また、ここからの実験はアセトフェノンと電気刺激を関連付けたものを中心に行ってます。
アセトフェノンの匂いを嗅がせながら電気刺激を繰り返して条件付けを行うと、アセトフェノンの匂いを受け取る匂い受容体を発現する嗅覚神経細胞の数が増えることは、この論文の筆者らが以前に発見していました。
この神経の変化が仔マウスにも引き継がれていました。
孫世代のマウスにも引き継がれていました。

興味深いことに、これらの結果は雄マウスに対して匂いを嗅がせながら電気刺激を与え、その後何も刺激を与えていない匂いも嗅がせていない雌マウスと交配させ、その仔や孫を使った結果だったのですが、逆に雌マウスに匂いを嗅がせながら電気刺激を与えた後に、何も刺激を与えていない匂いも嗅がせていない雄マウスと交配させた結果生まれてきたマウスでも、匂いを嗅がせたときにすくみ反応を起こすという結果が得られたことです。
つまり、父親からでも、母親からでも、「匂いによるすくみ反応」が引き継がれることを見出しました。
神経の変化も同様でした。

では、どのように親から仔へ、後から獲得した「匂いによるすくみ反応」が引き継がれるかを考えるために、筆者らは「DNAのメチル化」に目をつけました。
DNAはメチル化などの様々な修飾を受けていて、これが遺伝子機能の発現に関わることが知られています。(エピジェネティクスと言って、最近流行ってます)

DNAは生命の設計図とよく言われますが、誤解を恐れずにイメージしやすいようにざっくりというと、沢山の料理が載ってるレシピ本みたいなものです。
レシピ本(DNA)にはたくさんの料理が載ってますが、カレー屋さんではカレーのページが、ラーメン屋さんではラーメンのページが開かれてます(mRNAの転写)。
そして、カレー屋さんではカレーのページをもとにカレーが作られて、ラーメン屋さんではラーメンのページをもとにラーメンが作られます(タンパク質の翻訳)。
レシピ本にはコツとか注意とかメモとかが付箋で沢山はられてます(エピジェネティック)。

アセトフェノンの匂いを嗅がせながら電気刺激を与えた雄マウスの精子の、アセトフェノンの匂いを受け取る匂い受容体の遺伝子の領域のメチル化が低下していることを、筆者らは見つけました。
そして、この変化は仔の精子でも同様に起きていたので、筆者らはこの精子のDNAのメチル化の変化が、仔が匂いによるすくみ反応の変化を起こすのに重要だろうと考えています。

論文の内容は、こんな感じです。
精子のメチル化の変化がどのようなメカニズムで、子孫の神経の変化や行動の変化を引き起こしているかについては、まだ分かりません。
また、卵子でのメチル化は実験を行ってませんので不明ですが、母マウスに対する匂い条件付けも引き継がれることから、おそらく精子と同様の変化が起きているのではないかと思います。

メチル化は、いわばDNAに対するタグ付けですので、精子におけるメチル化の変化はもう一つ高次元な「メタタグ」の付与であるような印象を受けました。
検証はとっても大変そうですけど…。

ざっくりとまとめるつもりが結構長くなってしまいましたが、この論文の内容が真実であるならば、とても重要な事実を含んでいると思います。
久しぶりにブログを書いて、さらにすごーく久しぶりに科学の話題にしようと思うくらいには、私の中で興味深かったです。
あと、少なくても今回の研究では、新聞の記事のタイトルにあるような「恐怖の記憶」そのものが継承されているわけではないなあ、ともやっとしたので、簡単に書いてみようかなあと思った次第です。
記憶が継承されるという可能性そのものを否定するわけではもちろんありません。

もし父や母、爺さんや婆さん、曾祖父さんや曾祖母さん、もっとずっと昔のご先祖様の経験した「何か」がDNAに乗って継承されているとしたら、と考えると何かロマンがありますね。
私が魚が苦手なのは、きっと江戸時代のご先祖様が魚を食べて食あたりになったせいなんだと思います。たぶん。
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科学の仕分け
本日はTwitterなどでは一日話題になっていたのですが、行政刷新会議による文部科学関連の「事業仕分け」の一部が始まりました。
SPring-8の予算削減が決まったことも大きな話題ですけど、文部科学関連では以下の項目が「事業仕分け」の対象になっています。

【20091110 科学技術関連の事業仕分けに時間は十分か SciencePortalより引用します。


・国立大学法人運営費交付金
・大学教育・学生支援推進事業
・グローバルCOE プログラム
・グローバル30
・組織的な大学院教育改革推進プログラム
・大学教育充実のための戦略的大学支援プログラム
・大学等奨学金
・科学技術振興調整費(革新的技術推進費、先端融合領域イノベーション創出拠点の形成)
・科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)
・科学研究費補助金(若手研究(S)〜若手研究(B)、特別研究員奨励費)
・特別研究員事業((独)日本学術振興会)
・女性研究者支援(科学技術振興調整費(女性研究者支援システム改革))
・世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム
・学術国際交流事業((独)日本学術振興会)
・知的クラスター創成事業
・都市エリア産学官連携促進事業
・産学官連携による地域イノベーションクラスター創成事業
・産学官連携戦略展開事業
・地域イノベーション創出総合支援事業((独)科学技術振興機構)
・理科支援員等配置事業((独)科学技術振興機構)
・科学未来館((財)科学未来広報財団への運営委託を含む)((独)科学技術振興機構)
・科学研究費補助金(特別推進研究、特定領域研究、新学術領域研究、基盤研究(S))
・戦略的創造研究推進事業((独)科学技術振興機構)
・戦略的イノベーション創出事業((独)科学技術振興機構)
・先端的低炭素化技術開発((独)科学技術振興機構)
・戦略的基礎科学研究強化プログラム((独)科学技術振興機構)
・革新的タンパク質・細胞解析研究イニシアティブ(ターゲットタンパク研究プログラム)
・革新的医薬品・医療機器の創出に向けた研究(分子イメージング研究(文科省、(独)理化学研究所、(独)放射線医学総合研究所)
・新興・再興感染症研究拠点形成戦略型活用プログラム
・原子力システム研究開発事業
・先端計測分析技術・機器開発事業((独)科学技術振興機構)
・次世代スーパーコンピューティング技術の推進((独)理化学研究所)
・大型放射光施設(SPring-8)((独)理化学研究所)
・植物科学研究事業((独)理化学研究所)
・バイオリソース事業((独)理化学研究所)
・GX ロケット((独)宇宙航空研究開発機構)
・宇宙ステーション補給機(HTV) ((独)宇宙航空研究開発機構)
・衛星打上げ(24 年度以降打上げ分)((独)宇宙航空研究開発機構)
・深海地球ドリリング計画推進((独)海洋研究開発機構)
・地球内部ダイナミクス研究((独)海洋研究開発機構)
・高速増殖炉サイクル研究開発(原型炉「もんじゅ」および関連研究開発)((独)日本原子力研究開発機構)
・材料試験炉研究開発(JMTR) ((独)日本原子力研究開発機構)
・高レベル廃棄物処分技術開発(深地層処分)((独)日本原子力研究開発機構)
・国際熱核融合実験炉研究開発(ITER(サテライト・トカマク計画)) ((独)日本原子力研究開発機構)


個人的レベルでは私の職そのものが仕分け対象になっている気配ですけど、それはそれで困りますけど、ネット上で見た映像のようなやりかたで「仕分け」されるのであれば、「科学」が困ることになりかねなさそうです。

追記
13日の金曜日の仕分け結果はここに詳しいです。
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009111301000870.html

もう、どこからコメントしていいのか分からない有様です。
SPring-8も、学振の研究員も科研費も、全部。
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